漂泊の牙

漂泊の牙

 先日読んだ邂逅の森の続編(に位置づけられる作品)。同じ主人公というわけではなく、邂逅の森で描かれているマタギの世界が、背景にある。これから読む方には、順番で読むのをお薦め。(そんな自分も、そう友達に薦められた)

 本作は、邂逅の森とは違うアプローチ =中心となる人物三名(城島郁夫、堀越、丹野恭子)の視点が時間を軸に切り替わりながら= 、ストーリーが展開されていく。一人一人の個性を楽しみつつ、一つの出来事に対して異なった視点を持ちながら話は進み、最後にそれぞれが持っていた情報が合わさって、一本のストーリーが出来上がるという流れだ。

 章毎に視点が切り替わることで、僕自身の、のめりこみ度は低かった気がする。事件の生々しさは強かったものの、人物の思考が冷静だったからかもしれない。しかし逆に、より緻密に物語を楽しめているのがわかった。

 本作のテーマは、平たく言えば自然との共生。読後に感じた印象だと、一つの(フィクションかもしれないが)過去に日本が辿った事実を提示し、これからどうする?という疑問符を打った作品に思える。

 個人的にオオカミは好きな動物の一つ。環境問題や自然との共生について、一言で返せる回答はないものの、まず自分が良いと思える事をやって行こうと思った。